文化財の科学的分析

金属、硝子、陶器・土器、顔料など様々な材質の文化遺産の成分および微細組織の分析により、製作当時の原料の成分、製作技法、産地などの推定に活用している。また最近、BT(Bio Technology)分野における分子生物学的技術を応用し、出土した人骨や動物骨のDNA分析、古生物遺体の安定同位体分析および出土有機試料の科学的分析研究を行っている。



古代金属遺物の材質分析および製作技術の究明

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米粒大の風鈴を収拾した状態

金属遺物の科学的分析により、微細組織および硬度などを調査し、製作技法および産地を推定する。

分析過程

金属遺物の分析過程

image 1. エポキシ樹脂を利用し、組織観察用試片をつくる。
image 2. 顕微鏡で観察する表面を鏡面で練磨する。
image 3. 分析顕微鏡により微細組織を観察する。
image 4. 蛍光X線分析装置で成分を分析する。
image 5. 微小硬度計を用いて各部の硬度を測定する。
image 6. X線回折分析装置を利用し、結晶構造を分析する。

金銅遺物:青銅に金鍍金した遺物

金銅遺物の材質分析は画像分析装置を利用し、鍍金層や内部組織を観察し、蛍光X線分析装置を用いて各部の成分を分析する。以下は感恩寺址・東三重石塔(国宝第112号)から出土した舎利箱遺物を細部撮影と成分分析を行った結果である。


舎利瓶の蓋の細部を撮影

image 幅約0.25mmの金線と0.3~0.5mmの金の粒によって装飾が施されている。(全長1.3cm)

舎利瓶の蓋に付いているつまみ部分を拡大撮影したもの

image 中央の7つの金の粒を中心に、七ヶ所に3つずつ金の粒で装飾が施されている。(全長0.4cm)

金の粒の使用技術の日常化

image 0.3mmの金の粒を内側の接合基準点とする。

風鈴を収拾した状態

image 米粒大の風鈴を収拾した状態約5mmの鐘身の0.3mmの金の粒の装飾が施されている。

金の粒の内部組織の状態

image 純度98%の純金を使用している。

金の粒の内部組織の状態

0.3mmの金の粒を金鍍金(銀10%を加えた合金)を利用して強く固着させている。溶融温度は、純金は1,063℃、風鈴の素地(金94%)は1,055℃、10%の銀が含まれた金鍍金は1,046℃である。つまり、各部の銀の顔料により溶融温度を別にして金鍍金している。これにより、新羅の職人が優れた冶金術を持っていたことが分かる。

image 溶接部分の面積を最小限に抑えた素晴らしい固着技術を示している。→接合面の長さ0.18mm

青銅遺物:銅に錫が含まれた遺物

青銅器の種類による組成の分布

以下の図は三種類の青銅器における代表的な主成分の分布を示している。青銅の匙と箸および青銅容器類1は鉛が含まれておらず、約550℃で鍛造し水で冷ましたパンチャ(朱錫と合金した鍮銅の固まりを鍛錬して作り上げた器をさす)であることが確認できた。生活用品の中でも主に食器として使用された。青銅容器類2と青銅剣には適量の鉛を含め鋳造性を高めることによって製作しやすくした。このグループの青銅容器類は食器を除いた祭器類などに使われ、青銅剣は錫と鉛を少量ずつ加え、適度の硬度と靭性を持たせた。

image 青銅遺物の平均組成グラフ

青銅遺物の微細組織

青銅遺物の成分および微細組織を分析すると、鋳造品なのか、鍛造品なのか、その製作法を知ることができる。鋳造品の場合、樹状構造(dendrite)を持ち、鍛造品の場合は熱処理されるので端正な結晶粒を示す。鋳造品でも長時間加熱すると樹状構造は消え、結晶粒に変わる。また、鉛は銅や錫に溶け込まず、ほとんど丸い粒子で凝固状態で枝の間に散在しており(片石)、含量が10%以上の場合は共析組織(α+δ)が現れるのが確認できた。


青銅の匙

image 青銅の匙
image 青銅の匙の微細組織(鍛造品、200×)

青銅の盒

image 青銅の盒
image 微細組織(鍛造品、200×)

武具類

image 青銅剣
image 青銅剣の微細組織(鋳造品、200×)

高麗梵鐘

1999年11月、日本人の高原日米子氏が韓国に寄贈したもので、高さ71センチ、下部径50センチの中型梵鐘である。

image 高麗梵鐘

鉄器遺物:鉄を利用して製作された遺物

鉄の性質は、鉄に含まれている炭素(C)の量によって決められる。Cの全く入っていない純鉄の融点は1,538℃である。Fe-Fe3C状態図に表われる固相には4つの種類がある。つまり、αフェライト(ferrite)、オーステナイト(austenite)、セメンタイト(cementite)、δフェライトである。Cが1%の鉄の場合、鉄の液状であるLの状態で冷めると、1,430℃でオーステナイトであるγの結晶粒が生じ始め、1,360℃でγとなる。さらに温度が下がり810℃となると、セメンタイト(Fe3C)という析出相が生じ、次第に増える。さらに冷めて727℃になるとγは消え、フェライトのαとセメンタイトになる。しかし、実はCが0.8%の場合、パーライトが生じ、パーライトの上からセメンタイトが析出される。パーライトはフェライト(α)とセメンタイト(Fe3C)が交互で層状をつくる析出物である。とくにCが4.3%の場合、結晶粒が増えず、1,130℃で瞬時に凝固する。したがって、鋳物用としてはこの組成の鉄を利用する。

image Fe-C状態図実線:Fe-Fe3C状態図、点線:FeㆍㆍㆍC状態図

鉄の種類

鉄はCの量が多いほど硬くなるので鍛造が難しくなる。したがって、鉄を区分するときは、Cの含有量をもって種類を分ける。
1.錬鉄(wrought iron):純鉄とも呼び、炭素の含有量が0.1%以下のものを指す。 非常に柔らかく、手で曲げることができる。鍛造して器などをつくることはでき るが、硬度が低いため、刀、斧などの利器には適しない。
2.鋼鉄(steel):炭素量が0.1∼1.7%の鉄を指す。硬いが、延性があるため、鍛造 によって様々な物に製作することができるので、鉄の中で最も幅広く使われる。韓国でも鉄器時代の初期から多く使用されてきた。
3.鋳鉄(cast iron):銑鉄とも呼ぶ。炭素の含量は1.7∼4.5%以上である。非常に硬いので鍛造はできず、鋳造用でのみ使われる。この国では鉄器時代に斧などをつくる際に使用した。


鉄製遺物の微細組織

鋳造品

image 鉄斧
image 鉄斧の微細組織(200x)

鍛造品

image 鉄製鑿
image 鉄製鑿の微細組織(200x)

陶器・土器の製作技術の究明・産地推定

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土器の偏光顕微鏡写真

陶器・土器の科学的分析とは、鉱物の組成、化学成分、焼成温度・微細構造の観察、製作技法の研究、採取地域の地質学的特性をもとにした微量元素分析による産地の推定などの作業を指す。

分析過程

陶器・土器の分析過程