研究現況
復元材料・技術についての研究開発
伝統丹青顔料の製造技術及び品質評価研究
伝統丹青顔料は、近現代化の過程で人工の化学製品に取って代わられ、製法や工法が断絶してしまっているため、現在、文化遺産の修理現場で伝統材料を使用することは困難である。そこで、断絶した丹青顔料の伝統製造技術を復元し、文化遺産の修理現場への伝統顔料の円滑な供給基盤を構築するため、「伝統丹青顔料の製造技術及び品質評価研究」を進めている。本研究は、7か年事業として2014年から2020年にかけて行われる計画である。伝統顔料の原料(天然鉱物など)の供給基盤構築から、製法を明らかにすることによる伝統顔料の再現、文化遺産修理現場へ適用するための品質基準研究などを進めており、残っている古丹青の顔料についての調査分析も同時に実施している。
文化遺産建造物の生物被害パターンの分析研究
世界各国で気候変動に対応するための文化遺産管理方案が活発に議論されており、韓国でも木造文化遺産に対するシロアリ・地衣類などによる生物被害が全国的に広まっていることを受け、文化遺産保存管理のため総合的な対策を講じることが必要となっている。本研究では、建造物文化遺産の生物被害パターンを分析することで、周辺環境や地理的要因を総合的に考慮に入れた「生物被害予測モデリング」を開発することで、木造文化遺産の保存方法を総合的に模索するよう試みている。
文化遺産復元用の伝統韓紙の品質基準及び機能性向上のための研究
日本の和紙、中国の宣紙がユネスコ無形文化遺産に登録されたことを受け、韓国の伝統韓紙も、保存性、環境へのやさしさ、優れた品質などが世界的に注目を集めている。本研究では、伝統韓紙の制作技術を科学的に究明し、文化遺産の補修・復元用韓紙の品質基準をつくろうとしている。さらに、伝統韓紙の用途による品質を分け、制作工程を改善することで、韓紙の活用度を高めようと試みている。
伝統石灰材料の品質改善研究
近現代化の過程で、伝統的な建築材料の生産技術や施工技術が断絶してしまい、文化遺産の修理・復元の際に伝統技術を適用することが困難になっている。現代の建築材料を用いた修理・復元の際にも、細部の基準が設けられていないまま使われることも多々ある。本研究では、従来の建築文化遺産に使われた石灰材料の現状を調査し、科学的な分析などにより伝統的な石灰材料の配合法や工法を明らかにすることを目指す。さらに、用途による石灰材料の配合比率、混入材料の研究により、石灰材料の性能を改善することで、文化遺産へ適用可能な石灰材料を開発することを目標とする。
『朝鮮王朝実録』蜜蝋本の復元技術の研究
『朝鮮王朝実録』(国宝)の中で損傷状態が最も激しい蜜蝋本の保存・復元方法を講究するため、2006年から「朝鮮王朝実録・蜜蝋本復元技術研究」を行っている。損傷を受けた蜜蝋本の現状調査、原料の特性研究、復元および保管技術の研究などを通じて総合的でかつ体系的な保存方法を樹立することを目的とする。
陶磁器・土器の復元材料開発研究
陶磁器・土器文化遺産を科学的に復元するため、復元材料および技術を開発する研究である。2009年より2011年まで「陶器・土器の汚染物除去研究」を、2012年からは「陶磁器・土器の復元材料開発研究」を行っている。本研究では陶磁器・土器の復元材料として合成樹脂と伝統材料を対象とする。合成樹脂の安定性と遺物への適用性研究に基づき、合成樹脂の使用基準を設けると同時に、伝統材料を利用した接着剤を開発し、遺物保存に適用する。
金属文化遺産の再腐食物に対する安定化方法の研究
金属文化遺産は保存処理後、再腐食による損傷が非常に深刻であるが、根本的な保存方法がない状態である。本研究は再腐食抑制方法を確立するため、2010年より進められている。腐食物の生成原因を明らかにし、再腐食が発生しないよう改善すると同時に、使用薬品と材料を検証することにより安定した保存方法を提示することを目的とする。
琥珀遺物保存方法の研究
琥珀(amber)遺物の保存方法を設けるため、琥珀の化学的造成、劣化特性などを究明し、保存・復元材料の特性と適用性を評価した。その結果、琥珀遺物の保存状態、琥珀の材料としての特性、劣化特性に関する資料を確保し、琥珀遺物の保存用材料の物性、保存処理の特性、劣化の特性を試験した結果に基づき、琥珀遺物の保存に適した高分子材料を提示した。
保存倫理規範基礎研究
アメリカ、イギリス、カナダ、EU、オーストラリアなど海外では1960年代からすでに保存倫理規範が制定・施行されているが、復元技術研究室ではアジアでははじめて保存倫理規範に関する体系的な研究を2010年より行ってきた。2010年11月には倫理規範関連の国際学術シンポジウムを開催し、2012年には国内の保存環境と文化遺産の特徴を反映した倫理規範を制定し、国内の保存処理者が実質的に現場で活用できるマニュアルを提供する計画である。
文化遺産保存技術の普及・活用
金属、木材、紙類、織物など、文化遺産の材質別に適用された保存技術と材料、その成果を体系的に整理し、その結果を保存関連機関に提供することにより、実際保存現場で活用できるように努める。本事業は2009年より2011年まで進められ、金属、木材、紙類、織物文化遺産を対象に書籍が発行された。